2015/12/12

Carpe Diem

 ここ半年ほど、やたらとsteamに無料のノベルゲームが増えたように思われる。steamで何が起こっているのかは知らないし特に知りたいとも思わないが、一応記事を書いておく。


 とりわけ僕を驚かせたのは『Written in the Sky』で、このゲームは何となんかよくわからないけど、二人の美少女が性行為をするのだ。すごい。ストーリーは15分程度で、僕は全部スキップして実績を解除した。全実績を解除したのはこれが僕の人生ではじめてだ。
 しかしながら、フリーレズビアンセックスを容認するとはsteamもいよいよここまで来たのかと思わざるをえない。この文化が成熟して『カタハネ』のような記念碑的百合作品を生み出す日もそう遠くはないだろう。LGBT万歳。

 他にも軽く調べるだけで幾つか見つかる。




 すげー良い、アマチュア感全開で、これぞ人間の営みという感じがする。在野の人間の創作活動を漁るのはこれだからやめられない。商業化の波に襲われる以前の、プリミティブな人間の表現というものがここには残されている。
 『Voice from the Sea』はやや頭一つ抜けたクオリティな気はするが。次にプレイするとしたらこれにしよう。わりかし評判も良いようだし。

 そして今回僕がこの記事を書くに至ったゲームがこれである。

Carpe Diem

 カルペ・ディエムとは大きく出たもんだ。
 このゲームの総プレイ時間は全ルートで20分程度で、エンディングは1つ。僕はオートモードを駆使して錆びついてた包丁を研ぎながらプレイした。

 まずは表題の意味を丁寧に読み解いてゆこう。
 カルペ・ディエムは「メメント・モリ」「ヴァニタス」の言葉に続く最後の句で、とりわけバロック期の文化に深く影響を与えた語の一つである。
 メメント・モリ、即ちラテン語で「死を忘れるな」は比較的メンヘラのみなさんの間でそれなりに日常的に用いられる語なので馴染み深い言葉だが、西洋ではメメント・モリはヴァニタス、カルペ・ディエムへと続くようなニュアンスで使われるのが一般的だ。

これは死のイメージです。

 ヴァニタスとはラテン語で「空虚」を意味する語で、旧約聖書の「ヴァニタス・ヴァニタートゥム(虚無の虚無)」がよく引用されるらしい。人間とは誰も彼もがやがて死にゆくものであるし、それゆえに人生に永遠不変などは無く、全ては空しい。どれだけ現世で華々しいものを集めたところで何者も死から逃れる事は不可能なのである、といった意味合いで華美な花々や甲冑などと共に置かれた頭蓋骨が美術のテーマとして描かれることが多い。

これは空虚のイメージです。

 そしてカルペ・ディエムへと続くわけです。直訳すると「その日を摘め」、およそ「人間は死ぬんだしこの瞬間くらいは楽しんどけ! 酒も飲め!」くらいの文脈になる。古代ローマの詩人ホラティウスの言葉に登場する語句である。
 カルペ・ディエムという語において、人々は死や空虚などという振り払い難いものを転覆させ、日々を快活に生きてゆく強さへと変換していったわけである。すごいですね、立派ですね。諸行無常とか言って悲嘆に暮れてるジャップの皆さんとは大違いだ。

薔薇が枯れてしまう前に摘んでいる様子です。

 といった文脈に位置する「カルペ・ディエム」をタイトルに冠するとはいい度胸じゃないか、となるのがこのゲームである。果たしてこの作品には死や空虚を徹底的に強度へと変換するようなテーマ性が用意されているのだろうか? されてるわけがないんだよな…などと思いつつゲームを起動する。


 めっちゃプリミティブだ、良い…。



 物語はデートの待ち合わせにヒロインのAiが遅刻する所から始まる。ド定番である。今時、日本でこんな冒頭を採用しようと思う人間はそういないだろう。





「待たせちゃった?」
「イェア、30分くらいな」
 日本だと「全然大丈夫だよ」とフォローする所を平然と時間まで告げるハードな主人公である。
 しかしヒロインはヒロインでド痴女みたいなファッションだ。
「今日はどこへ行こうか?」



 ショッピングモール、公園、ゲーセンの三つからプレイヤーは行き先を決めることが出来る。このボキャブラリーの少なさが作者のオタクらしさをありありと表現しており、実に味わい深い。余談だがこの選択肢がプレイヤーの関与しうる唯一の要素である。
 ちなみに、ショッピングモールに行くとその後にゲーセンに行き、公園に行くとその後にショッピングモールに行き、ゲーセンに行くとその後に公園に行くこととなり、作者の見事なシナリオ節約の手腕が遺憾なく発揮されている。



「この服とか似合うんじゃない?」
「いらないよ」
「いいじゃん、(テメエはオタクだから服買わないし)私が買ってあげるからさ!」
 という健気な献身っぷりを見せるヒロインに対し、会計をしている間に一人でPCストアへ行くクソ主人公。これは衝撃的なエンディングの伏線となっている。

 本屋ではAiちゃんは料理本を探す。


「ねえ、どんな料理が好きなの?」


「時々あんたに作ってあげるからさ」


ブフ・ブルギニョン


「ワオ、イカすじゃん。ベーコンエッグから初めてみない?」

 主人公のクソ鬱陶しい返答にも平然と返すAiちゃん。本当に良い子である。
 ショッピングモールを歩きまわるのにも飽き、二人はゲームセンターへと向かう。そこで、AiはUFOキャッチャーの景品の巨大な蜘蛛のぬいぐるみ(違うかも)を見て可愛い!欲しい!と騒ぐ。やや可愛いの基準がズレている系の設定らしい。


「このクレーン壊れてるでしょ!」
 Aiは何度も挑戦するも、全て失敗する。


「馬鹿言うなよ、ほら、俺が取ってやる」


…俺はあまりUFOキャッチャーが得意じゃない。





「獲った!」
 何とかなった。
「ワオ、どうやったの!?」
「簡単さ。」
 知っている全ての神に祈ったのさ…。

 キザで鼻持ちならない男である。



 そうこうしている内に日は暮れ、夜景を見渡せる小高い丘のベンチに座って花火を眺める二人。なんでもない休日かと思いきや、都合よく花火が上がっているらしい。この実にチャチな背景が良い味を醸し出している。僕の一番のお気に入り画像だ。
 主人公はこの時間が永遠に続けばいいのに、と願う。


 だが、もう時間が無い…


 彼女は悲しげな顔でこちらを向いた…


「時間、なんでしょ?」

「アンタは私と付き合うべきじゃなかったのよ」


「言うな」


「結局、私はただの――」
 画面が暗転する。


…なあ、チューリングテストって知ってるか?
 これは「アルキメデスの原理って知ってるか?」のパロディなのだろうか。

機械の知能に関するテストで、どれだけ素晴らしい機械も人間のようにはなれないんだ…どれだけ人間にそっくりだったとしても、だ…
それは決して本物の人間にはなり得ないんだ…
そう…


ちょうど、Aiみたいにね。


彼女のプログラムがどれだけ優れていようとも。


どれだけ俺が否定しようとも。


彼女は決して現実にはなれないんだ。


「あー」


「まーたクラッシュしちゃったよ」


「はやく安定版の修正をしなくちゃな…」


「…」


「俺は一体、何をやっているんだ?」


読んでくれてありがとな!
俺のノベルゲームプロジェクトを支えてくれたみんなに感謝だぜ! ほな、次の作品でな!
- Eyzi

「実績を解除しました!」



な、マジで何やってんだろうなあ…

















これが100円か…


なるほどね。