2016/07/15

Steamにおける日本産美少女ゲームの進出とビジュアルノベルゲームの隆盛について

1. はじめに

 以前、このブログでも概略を紹介したように、2016年2月13日、Liar-softの『放課後の百合霊さん』の英語版『Kindred Spirits on the Roof』が規制無しのまま、つまり18+作品としてSteamでリリースされ、海外のオタク達によって大いに歓迎された。これは象徴的な出来事だったが、無論のこと日本産美少女ゲームの海外進出自体は――全年齢化という難点はあったものの――以前から行われていたし、海外の百合18+作品も既に登場していた。とはいえ、やはりYuritopiaの設立宣言はSteamビジュアルノベルゲーム界隈の隆盛を象徴していると言って過言ではない。
 Steamビジュアルノベルゲーム界隈における18+作品の初出やその受容、あるいは日本の場合と比較したビジュアルノベルゲーム市場における百合作品が占める割合、JAST USAが果たしてきた市場的意義など、語るべき切り口は幾らでもあるのだが(読者諸賢の興味関心に当てはまるかは別にして)、今回は日本産美少女ゲームの輸出競争について紹介をしようと思う。

2. MangaGamer

 OVERDRIVEのメンバーを中心とした英訳美少女ゲーム販売ブランドMangaGamerの設立は2008年と我々が思っているよりも遥かに早い。これについては日本国内からのアクセスを制限し続けているのが最大の要因なのだが、MangaGamerがSteam進出を果たしたのは2014年2月21日、『Go! Go! Nippon! ~My First Trip to Japan~』のリリースを通じてである。この作品について言及するのは避けるが、そこそこの売上を叩き出したようである。
 MangaGamerの強みはやはり日本人によるプロジェクト故に国内のコネクションを通じて良作を潤沢に抱えられるという点である。設立の中心となったOVERDRIVEには『エーデルワイス』、『キラ☆キラ』、『DEARDROPS』、『電激ストライカー』、『僕が天使になった理由』があるし(賛否両論はあるかもしれないが、そもそも海外市場では良作止まりの作品ですら貴重なのだ)、『D.C. 〜ダ・カーポ〜』シリーズを抱えるCIRCUS、圧倒的影響力をもって女子中学生に父親を殺害させた『ひぐらしのなく頃に』の07th Expansion、『殻ノ少女』のInnocent Grey、新海誠OPで名高いminori、softhouse-Seal(唐突だが海外にはsofthouse-Sealがドストライクなオタクが多そうな印象がある)など、MangaGamerブランドから発売された作品は錚々たる面子が揃っている。発売予定ではあるが、ぶらんくのーと『ひまわり』や、アリスソフト『超昂閃忍ハルカ』も既に手の内にあり、彼らの拡大は留まるところを知らない。Liar-softやアリスソフトと提携した今、仮に『Fate/Stay Night』が海外進出するとしたらきっとMangaGamerからに違いない(星空めてお、奈須きのこ、桜井光、虚淵玄あたりの横の繋がりは極めて強いと認識している)、まあFate程の超有名となるととっくに英訳海賊版が出回っており今更売上は見込めないからそんなことは無いだろうが――と言おうと思ったが、どうやら既にファンの手による翻訳版が発売されているらしい。えらい。

3. SekaiProject

 『Go! Go! Nippon! ~My First Trip to Japan~』がSteamでリリースされた約4ヶ月後、SekaiProjectなるパブリッシャーから支倉凍砂(『狼と香辛料』の人だ)の同人ノベルゲームシリーズ『World End Economica episode.01』が発売された。その半年後には『Sakura Spirit』という覇道の第一歩を踏み出し、更に二ヶ月後、唐突のアニメ化で話題沸騰中の『Planetarian: The Reverie of a Little Planet』の英語版を突如として無料公開し、業界を騒然とさせた(今思えばアニメ化に向けた布石に過ぎないのだが)。
 SekaiProjectはアメリカの非公式翻訳集団を前身としており、JAST USAと提携しつつ正式に美少女ゲーム翻訳・販売会社としてSteamでの販売を開始した企業である(JAST USAは彼ら独自で『永遠のアセリア』や『聖なるかな』、『リトルウィッチロマネスク』のパブリッシングを行ってはいるが)。彼らは日本国外のノベルゲーム市場開拓という使命のもとに、より厳選した作品を中心に翻訳を行っている(そうか?)。少なくとも、『Planetarian: The Reverie of a Little Planet』、『Narcissu 1st & 2nd』(これもまた無料公開だった)、『グリザイアの果実』、『G線上の魔王』、『CLANNAD』をチョイスする辺りはSekaiProjectの名に恥じぬゼロ年代エモオタクっぷりを見せている。一方でSakuraシリーズや『ネコぱら』シリーズ辺りの手堅い萌え作品を抑えているだけでなく、『Hunie Pop』騒動の後にしっかりと18+パッチの販売に手を出す辺り、経営を成り立たせるための最善の判断を行っていると言える。
 また、(恐らく)世界初のマルチランゲージエロゲ『KARAKARA』のSteamパブリッシャーもまたSekaiProjectであり、グローバル美少女ゲーム市場を切り開き続けているのは彼らに他ならない。

 余談だが、FrontwingはSekaiProjectを通じてグリザイアシリーズを販売してきたが、2016年6月23日に突如として自社パブリッシングで『Purino Party』というゲームを――グリザイアシリーズの合間に発売された冴えない抜きゲーに、『Hunie Pop』を皮切りにブームとなったパズル要素を組み込んで――リリースした。一見、日本産最大の武器のハイクオリティなMOEイラストで市場を圧倒するように見えたが、どうやら元が酷い上にパズルもクソという有様で散々叩かれると言う事故を起こしている。

4. Degica

 Steamでの日本向けコンビニ決済を可能とし、多くの国内ゲーマーを喜ばせた(ついでに手数料をふんだくった)Degicaだが、遂に『白衣性愛情依存症』『マブラヴ』を引っさげてビジュアルノベルゲーム市場に参入した。SekaiProjectの方向性からするに、『マブラヴ』をDegicaに奪われたのはかなりの痛手だったに違いない。『シュヴァルツェスマーケン 紅血の紋章』よりも更に改善されたエンジンを搭載しているらしく、『マブラヴ』海外展開に対する力の入りようがよく分かる。これからの動向に注目したい。

5. 輝かしいステージの下で
 
 シンプルな小見出しに飽きたのでエモい一文を挿入してしまったのだが、MangaGamerやSekaiProject、Degicaなどの大手パブリッシャーが日本産の名作美少女ゲームの壮絶な奪い合いを繰り広げる裏では、数え切れない程の作品が日夜販売され続けている。『ChuSingura46+1 S』が無料公開されたのは記憶に新しいし、圧倒的な美麗イラストをヘッダーに採用しつつも立ち絵はまあ65点みたいな『神明的一天世界(God's One Day World)』の灰烬天国や、『Memory Oblivion Box』や『Gaokao.Love.100Days』を抱えるNVLMaker、『Mayjasmine Episode01 - What is God?』のErotes Studioなどの中国勢はやはり英語圏と比べてイラストのクオリティが頭一つ抜けているし(『Shan Gui』のイラストは今ひとつだが、物語は極上だ)、外国人向け日本観光ノベルゲーム『Tokyo School Life』や『Kyoto Colorful Days』のDogenzaka Lab は(作品がどれだけ下らなかろうと)何だかんだで乙女ゲー等の追い風のおかげで元気な印象だ。『We Know the Devil』のDate Nightoだってコミティアめいた小粒の良作を作っている。
 これだけ市場が活発化していると、『Osozaki 遅咲き Late Blooming - First』のようにむしろ日本人をターゲットにしているようで実は英語とスペイン語版しか搭載していないというよくわからない作品が出てきたり、『Echo Tokyo: Intro』や『Drusilla Dreams』、『Burokku Girls』あたりの本当にこの世の地獄としか思えないような作品が登場してくる。ちょうどMangaGamerやSekaiProjectが黄金期の到来を告げ、それらの作品に感化された在野の人々がパトスの赴くままに創作に着手し、一区切りを迎えたタイミングだ。僕はそういう生み出されるべきでなかった作品を見るのが本当に好きで(買わないが)、『Echo Tokyo: Intro』の一枚絵の中でも一番気に入っている画像で筆を置きたいと思う。
 全世界のオタク達の作品がインターネットを駆け巡り、ビジュアルノベルゲーム界隈が今後とも発展する事を祈って。

このバイクのように…