2012/10/15

魔法少女ミラクル☆リリカafter

『魔法少女ミラクル☆リリカAfter』

 外がうるさいです。
 パトカーの甲高いサイレンがずっと聞こえてきます。
 どうやら私を拘束する為に、警察の方々が集まっているようです。
 私は無実の罪で、心を浸食する悪に理性を支配された警察に指名手配されていたのでした。
 悪を退治したのに罪を着せられる世の中です。間違っています。明らかにオカシイです。
「ど、どうしよう……」
 ピコたんを不安そうに見つめます。
「窓からマジカル・ガウスで狙撃して数を減らして、突撃してきたのを迎撃するのが一番かな」
「やっぱりそうだよね」
 私はマジカル・ガウスのコッキングレバーを引いて、薬室に初弾を送り込みます。
「マジカル・ガウスって、トリガーセーフティみたいな安全装置は付いてないんですか?」
「ないよ。マジカルウエポンにそんな無粋なものは必要ないのさ」
 その時、ピコたんは何かを察知したのか、真剣な顔つきになりました。
「待った、リリカちゃん。この気配は恐らく……」
「どうしたの? ピコたん」
「……リリカちゃん、作戦は変更だ」
「えっ……?」
 持っていたマジカル・ガウスが光と共に消えました。
 無数の乱暴な足音が部屋の外から聞こえてきます。どうやら、警察の方々が家に上がり込んだようです。
「逃げよう。今は戦わないほうがいい」
「に、逃げるの? どういうことなの?」
「いいから、説明している時間なんてないよ」
 そう言ってピコたんはクローゼットを開けて、高らかに声を上げました。
「転送魔法陣展開、マジカルテレポート!」
 ピコたんの足元に魔法陣が現れたかと思うと、クローゼットの奥から光が溢れ出しました。
 私は思わず目を瞑りました。
「行こう、リリカちゃん。神聖マジカルキングダムに逃げるんだ」
 ピコたんが私の手を引っ張りました。
 私はピコたんと共に光の中へと吸い込まれていきました。

 気が付くと、私は見慣れぬ場所にいました。
 辺りを見回すと、ファンシーでカラフルな色調の建物が並んでいます。さらにその奥にはタージ・マハルのような造形の王宮がそびえていました。
「ここが……神聖マジカルキングダム……?」
「そうさ。ここは魔法界にある、全魔法少女を統括する唯一国家、神聖マジカルキングダムの王都だよ」
「すてき! まるで、おとぎの国みたい!」
 ここでは争い事なんてひとつも起こらない、そう言われて素直に納得できるような、そんな素敵な場所に見えました。
「ぼくの読みが正しければ、ヤツもこの転送魔法陣を通ってぼくらを追いかけてくるはずだよ」
「ヤツって……?」
 その瞬間、私たちの横にあった魔法陣から光が溢れ出し、そこから一人の少女が現れました。
 その女の子は、深紫色したダボダボのローブを身につけていて、頭にはこれまた深紫色の、先が折れているとんがり帽子をのっけていました。
「それはね、魔女っ子だよ、リリカちゃん」
 ピコたんはそう言いました。

 私たちは例の魔女っ子をロープで縛り、神聖マジカルキングダムの王宮の地下にある、冷たい石畳と石壁に囲まれた部屋に連れて行きました。
「クソッ、この私がこんな単純な罠に引っかかるなんて!」
 魔女っ子はずっとそう嘆いていました。
「元々、この魔法界には無数の勢力があったんだ。魔法使いや魔術師、魔導師……みたいにね。それが時代の変遷につれて、三つの勢力になったんだ。魔法使い勢力、魔女っ子勢力、そして我らが魔法少女勢力だ。それぞれ国家を形成していたんだ。形成当初は、どの勢力も均等だったんだけど、次第に魔法少女勢力が大きくなっていって、そして魔法使い勢力の大魔法帝国が、マジカルキングダムに従属した。次に魔女っ子勢力の魔法王国も従属したんだ」
「嘘つけ! 突然攻めこんで支配して、植民地にしただけじゃないかッ! 挙句の果てには統合までしやがって! この鬼畜共め!」
 魔女っ子は叫びました。
「黙れ豚がッ! 力無き者は支配される! それがこの魔法界の定めだ!」
 ピコたんは魔女っ子を怒鳴りつけ、持っていたトゲ付きの鞭で顔面を叩きつけて黙らせました。
「……まあ、コイツの言うとおり、確かに少々乱暴だったかも知れないね。そのせいか、魔女っ子にはコイツみたいなレジスタンスが多々存在するんだ」
 魔法界もなかなか大変な時代があったようですね。
「でも、今は聖魔法王国神聖マジカルキングダムが魔法界全域を統治しているよ。おかげで国家間の争乱は無くなったんだ」
「今は平和なんですね!」
「そのとおりさ!」
「何が平和だ……やってるのはただの恐怖政治じゃないか……ファシズムなんかクソ食らえだ」
 鞭が皮膚を裂く音が部屋に響きました。
「……それで、魔女っ子。聞きたいことがある。人間界の警察どもを洗脳して、リリカちゃんを凶悪犯罪者に仕立て上げたのは、貴様だな?」
 ピコたんがそう問いましたが、魔女っ子は何も答えませんでした。
 再び鞭の音が響きました。
 裂けた皮膚からこぼれた血がローブに吸い込まれます。
「死ぬ前に吐け。白状すれば命だけ助けてやる」
 それでも魔女っ子は何も答えません。
「鞭じゃ足りないというのだな」
 ピコたんが指を鳴らすと、奥から覆面をつけた人が荷台を押して来ました。荷台の上には、たくさんのごつごつした拳大の石と、コンクリートブロックが山積みにされていました。
 魔女っ子の顔色が青くなりました。
 覆面の人が石を床にばら撒きました。石と石がぶつかる音が石の壁に反響します。
 次に、覆面の人は魔女っ子が座っていた椅子蹴っ飛ばし、魔女っ子を無理矢理石の上に正座させました。魔女っ子の腕は後ろに組まれているので、立ち上がることができません。
 覆面の人が魔女っ子を正座のまま押さえている間に、ピコたんは十キロはあるであろうコンクリートブロックを魔女っ子の膝の上にひとつのっけました。
 魔女っ子の悲鳴が耳をつんざきます。
「吐け。十秒ごとにひとつ増やす」
 ピコたんはそう言いましたが、魔女っ子は未だに下を俯いたままです。
 ピコたんはコンクリートブロックをもうひとつ膝の上に載せました。
 魔女っ子の脛に大粒の石が食い込み、血が流れ出ます。
 それでも魔女っ子はピコたんを睨んだまま口を開きません。
「強情だな」
 ひとつ、またひとつとコンクリートブロックが積み上げられます。
 魔女っ子の脚は、ところどころ青黒く変色し始めていました。
 膝の上に五つ積み上げられると、ようやく魔女っ子は口を開きました。
「あああああああ、そ、そうだ! 私が警察たちを洗脳魔法に掛け、コイツを指名手配にして追い詰めようとした!」
「何が目的だ」
「魔法少女徴兵の阻止だ! これ以上魔法少女を増やされてたまるか!」
 ピコたんは覆面の人のほうを振り向くと、ひとつ頷きました。
「そうか……貴様は反抗勢力なのだな」
 ピコたんは不敵に口を歪めました。
 魔女っ子の顔が恐怖に染まります。
「まさか、貴様ァッ!」
「おい、こいつを広場に連れていけ。国民に告報しろ。祭りを始めようか」
 覆面の人は無言で頷きました。

 魔法広場を見下ろせる王宮のバルコニーに出ると、そこからは多くの群衆が沸き返っているのが見えました。
「とてもすごい盛り上がりだね」
 私はピコたんに言いました。
「そうだね」
 ピコたんはそれだけしか言いませんでした。
 広場の中心には背の高い木の柱が一本立っており、それを神聖マジカルキングダム国民が取り囲むように集まっています。
「さあ、始まるよ」
 ピコたんは言いました。
 群衆が割れて一本の道が出来たかと思うと、そこを例の魔女っ子が一人と、その魔女っ子を両脇から抱えるようにして連行している覆面の人が二人がその道を歩いて来ました。
 国民の歓声がより大きなものとなります。
 魔女っ子はそのまま木の柱にロープで縛り付けられました。どれだけ足掻こうとも、ロープも柱もびくともしません。
 覆面の人達は柱の周囲にたくさんの藁を設置しました。
 そこにポリタンクに入ったガソリンが何度も撒かれると、歓声がさらに大きくなります。
 バルコニーまでガソリンの匂いが風に乗って漂ってきます。
 さらにもう一人、覆面の人が松明を高く掲げながら現れました。
 すると民衆の歓声は熱狂的になります。
 テンションの上がりすぎで倒れる人が出てきそうな勢いです。
 魔女っ子の口が、なにか言葉を発したようでしたが、歓声に掻き消えて誰の耳にも届くことはありませんでした。
 松明を持った覆面の人が、魔女っ子目がけて松明を投げつけます。
 松明は魔女っ子にぶつかります。
 よく燃えるようにタールを染み込ませたローブに火が燃え移ります。
 それが広がる前に松明は藁の上に落ちてガソリンに引火します。
 魔女っ子が火の中に消えます。
 割れんばかりの歓声を上げる国民の熱狂ぶりは最高潮に達します。
 魔女っ子の断末魔がかすかに聞こえます。
 やがて断末魔は消えました。
 しばらくして火の勢いが弱くなると、黒焦げになった柱が見えてきました。
 次に人間のような形をした黒い炭の塊が見えました。
 完全に鎮火すると、覆面の人達がその炭や灰などを回収しました。
 回収が始まると、国民たちは解散しました。みな、揃って笑顔を浮かべていました。
 私はその様子をじっと見つめていました。
「最高のイベントだったね、リリカちゃん」
「……そう、ね」
 私はピコたんにそう返し、王宮の中に戻りました。

「ねえピコたん、私はこれからどうすればいいの?」
 私にあてがわれた王宮の一室で、私はピコたんに問いました。
「これから君は、レジスタンス狩りに参加してもらうよ」
「……私、元の世界に戻りたい」
「一度魔法少女になったら、二度と魔法界から出ることはできないんだ。……大丈夫、魔女っ子の反抗勢力の殲滅が終わったら、神聖マジカルキングダムの王都で一生楽しく過ごせるよ」
 私は俯きました。
「本当に、それしかないの?」
 ピコたんが私の目を覗き込みます。
「神聖マジカルキングダムの国民と魔法少女はね、王国に疑問を持ったらいけないんだよ」
 頭がぼんやりとしました。
「……うん、わかった。私、神聖マジカルキングダムのために戦う」
「そうだ、その意気だよ、リリカちゃん!」

 翌日、私は神聖マジカルキングダム海兵隊に入隊しました。
 一ヶ月間、血反吐が出る程過酷な訓練を受けました。血を見なかった日はありません。
 訓練期間に、たくさんのお友達が出来ました。元の世界では友達とは無縁でしたので、私はとても嬉しかったです。
 お友達と一緒なら、鬼軍曹のもとでの地獄のような訓練も耐え忍ぶことが出来ました。
 その後、レジスタンス鎮圧最前線に送り込まれました。
 そこは「地獄のような」ではなく、本物の地獄でした。
 蒸し暑く視界の狭いジャングルにはありとあらゆる場所に罠が仕掛けられており、さらに一日中敵のゲリラ攻撃に警戒しなくてはいけなかったので、私達の神経はみるみるうちに磨耗していきました。
 反抗勢力は予想以上に手強く、たくさんのお友達はどんどん戦死していきました。
 それでも私は、平和な暮らしのために戦い続けました。
 無制限に送り込まれる魔法少女と、ジャングルに潜む魔女っ子の争いは泥沼化してゆきました。
 やがて神聖マジカルキングダムは鎮圧部隊の投入を止め、魔法界南部に広がるジャングル一帯を魔女っ子の領地として認めて、それでようやく戦争は終わりました。
 戦争が終結すると、魔法界に平和が戻りました。
 しかし、神聖マジカルキングダムの王都に帰投した時、私は独りぼっちでした。
 私のお友達のほとんどは、深いジャングルの中に放置されたままだったからです。
 遺体を回収することはできませんでした。王都へ向かうヘリに、遺体を載せる余裕なんてなかったのです。
 お友達たちの代わりに王都に持って帰ることができたのは、山のような数のドッグタグだけでした。
 おしまい。