2013/07/11

ととの。の美雪はチョー悲しい


コンプ欲に誑かされて再プレイなんてしませんって言ったけど、再プレイしました。おれは犬猫以下の人間です。

あらかじめざっと述べたいことをシンプルに言うとしたら、主題的にアオイルートこそトゥルーエンドであるというだけの話です。

美雪は、アオイ的なイデアの呪縛から逃れようと試み、恐らくエロゲ史上最も「ヒロイン」ではなく「人間」に近付こうと足掻いたキャラクターである。プレイヤーすなわち「君」に対して、主人公を媒介せずに語りかける。ゲーム的な一方通行性を拒絶するために、1/3の30乗通りのを性格というギミックを利用する。テキスト表示を用いずに語りかけることで、あたかも現実の会話のように錯覚させる。
しかしゲームが再構築されると、哀れにも美雪はゲームのヒロインに収束してしまう。真一とはじめから恋愛をやり直す(もちろん、プレイヤー視点からの「やり直す」)。これは美雪が「ヒロインのイデア」であるアオイの下に収まってしまうのと同等のように思える。しょせんゲームのヒロインは「人間」になれぬキャラクターに過ぎないのだと。
むろん、救済は残されている。主人公が他のヒロインになびくことはない。真実の愛は誓われているのである。ゲーム的にも、プレイヤーが他のヒロインを攻略することはない。セーブデータを消して再プレイすることはもちろん可能だが、それは真一が事前に忠告していたように、冒涜である(僕のことです)。美雪の真摯なる想いは成就したのである――『君と彼女と彼女の恋。』というゲームの中では。
美雪との愛を誓ったプレイヤーは、『君と彼女と彼女の恋。』をプレイした後、本当に倫理的に忠実であるためには、一切の恋愛作品に触れてはならないし、現実での恋愛すらも行うべきではない。それは「永遠の愛」に対する裏切りだからである。当たり前だが、そういったのは実際殆どの場合ありえないのであって、美雪への裏切りと冒涜は約束されているのだ。美雪と愛を誓っても、君はまた他のエロゲをプレイしてインスタントに恋愛するだろうし、現実の女性と恋愛をすることもあるだろう(むろん、僕は無いが)。そういった意味で、君にとって美雪はやはりゲームのヒロインであらざるを得ない。
このことを象徴的に表しているのは、チートコードを入力した後のゲーム本編だろう。誓いなんてものはゲームの中のお話に過ぎないという乾いた態度でフルコンプを手に入れる。まったく無感動なフルコンプだ。まあ、しょせんはゲームなのである。無感動でも、それなりにフルコンプには達成感がある。

ちょっと待ってくれ。こんなのあまりにも悲しいではないか。あれほど真摯に愛を語りかけた美雪はこのまま見捨てられてしまうのか。
それに祝福を与えるのは、アオイである。「ヒロインのイデア」は、すなわちエロゲそのものである。大量消費されざるを得ない美少女は、アオイによって全包括され、エロゲそのものが一つの対象と化す。続々と開発されるエロゲーをプレイし続ける君を肯定するのだ。美雪との誓いを裏切ることすらも肯定してしまう。アオイの祝福こそが多くのエロゲをプレイする我々に最も与えられるべきものであり、ある種の諦念的な解決なのだ。

美雪ルートだけでは、おそらくプレイヤーはエロゲをプレイするのにうんざりしてしまうだろう。あるいは、「おせっかいな説教だ!」と吐き捨てるだろう。
アオイルートでなくては、我々はエロゲをプレイする活力と意義を見出だせなくなってしまう。虚構を愛する力を喪失してしまうのである。下倉バイオ氏はエロゲーマーの消費的態度に文句を言うためだけにこのシナリオを練ったのでは無いだろう。そうだったらアオイなど存在しなくて良いのである。
しかしまあ、だからといって僕は美雪そのものを否定するわけではないというのは、当たり前だが、念頭に置いてもらいたい。すべてのヒロインは平等に尊いのである。