2015/12/02

泉こなたの亡骸に愛を込めて

泉こなたの亡骸に愛を込めて

 かつて、らき☆すたがあった。僕はらき☆すたと共に生活をしていた。……こうした不穏な文章を書いている今、僕の心は毒を盛られたかのようにすっかり麻痺してしまっている。僕は今、泉こなたの亡骸を前にして悲痛に泣き喚くこともなく、ただそれが腐敗していくのをじっと眺めているのだ。嘆きや悲痛を超えた何かをもってして、泉こなたの亡骸を無表情に見ている。ああ、彼女はとうに死んでしまったのだと、そうした事実を確認する心情しか動きはしない。それでも決して彼女の擬似的な死に追悼の意を表さないわけにはいかない。かつて生活を共にしていた最愛の友人の死を悼まない人間が一体どこにいようか?
 泉こなたについて、僕の方から少しばかり説明をさせて欲しいと思う。これを読むあなたがもしよければ、ぜひとも話を聞いていって欲しい。こればっかりは僕の単なるわがままだから、あなたに強要することは出来ないのだ。……。……さて、泉こなたは、あなたも御存知の通り、”典型的なオタク”で、背が小さく、ロリ体型で、髪は青色で長く、ぴょこんと大きなアホ毛が立っていて、体育が得意な女子高生だった。夜通しネトゲをしたり、居間のテレビでゲームをしたり、アニメを観たり、コミケに行ったり、メイド喫茶でバイトをしてたり、そういうオタクな女の子だった。あの時はオタクといえばバンダナでリュックでライトセーバーでシャツインで犯罪者予備軍で、そういう疎まれるべき人々だった。今じゃそこらの女子中高生だってボカロを聴くっていうのに、ともかく当時はそういう時代だった。友人の柊かがみもオタクだった。こなたほどではないけど、ラノベは小説だからオタクじゃないとでも言わんばかりの態度で、オタク趣味がバレないように尽力するような、そういう見栄っ張りな女の子だ。まあ、かがみはこなたみたくオタクであることに誇りを持てなかったんだ。世間体を考えると、それも仕方がないことだ。他にも、柊つかさとか、高良みゆきとか、いろいろな友人がいた。趣味で通じ合うわけでもなく、ただ普通の友人として彼女らは仲睦まじかった。オタクの領野を飛躍して、単なる友人同士として関係を構築していた。自分が関与する余地もなく振り分けられるクラス制度の中でうまくやっていけていた。きっとそれは彼女らの人間性のなし得た偉大なる仕事だったのだと僕は思う。そうした日常こそ、なんとも微笑ましい情景だった。彼女らのじゃれ合いを見るだけでスッと心は晴れやかになったし、こなただって彼女らと共にいる間はよく笑っていた。
 ここまで読んだあなたはきっと「何をさも自分がアニメの中の人間であるかのように語っているのだ」と不快感を覚えるかもしれない、自然なことだ。僕がそういう風に書いたからだ。それを踏まえて、僕はここでひとつの重大な告白をしなくてはいけない。それは、僕は彼女らの日常を、ただモニター越しに観ていたに過ぎなかったのだ。けれども、僕は決してらき☆すたと共に生活をしていたという発言を撤回しない。むろんこれは単に『らき☆すた』の視聴が僕の生活の一部になっていたというだけではない。もっと重要な、『らき☆すた』特有の性質について語らなければならない。決して単なる生活に根付いた感覚ではなく、もっと主体的に切実なものがあったと主張しなくてはいけない。それが何よりも泉こなたに対する最も誠実な態度だし、僕はそれを偽って外面を取り繕うだなんて到底考えることは出来ない。もしそのようなことが出来る人間がいたのなら、僕は何よりも軽蔑するし、倫理の一線を踏み越えてまでナイフを心臓に突き立てかねないだろう。ともかく、『らき☆すた』というのはそれほど真摯な出来事だったのだ。
 ところで、あなたは『おたく☆まっしぐら』という美少女アダルトゲームをご存知だろうか。2006年に銀時計というブランドから発売された田中ロミオがシナリオを担当した育成シミュレーションゲームだ。未完成発売、パッチの中途放棄などと様々な問題を抱えている作品だが、主人公の本郷明は泉こなたと共通するような極めて強固なオタク観を有している。オタクであることに誇りを見出し、人生を捧げるべきだと判断し、なりふり構わずに趣味に傾倒する主人公だった。泉こなたとの差異を述べるのであれば、泉こなたは決してその主義を他者に強要することがなかったという点である。事実、そういったオタクであることにある種の気高さを見出すマッチョな主義の風潮は紛れも無く当時も存在していた。同時に、実際にはオタクであることを公言できずにインターネット上でそれらの趣味や欲望を発散させるような屈折した人々も多かった。それは柊かがみであり、僕でもあった。そんな僕が『らき☆すた』を観るのである。自己投影せずにいられるわけがあるまい。いや、正確には自己投影ではなくらき☆すたの世界に同時に生きているかのような錯覚である。僕はそれが錯覚であることを否定しないし、かと言って彼女らと生きていたように切実に感じていたという事実も否定しない。僕は本郷明のように堅牢ではなかった。らき☆すたは、その程度の僕に訪れた一抹の光だった、自己肯定の嵐だった。
 『らき☆すた』には、今日日の日常アニメには無い特有の性質があった。俗に言う「あるある」で、シンクロニシティでもあった。こなた達は頻繁に「あるある」の話題で盛り上がる。それはオタクならではの「あるある」でもあるし、当時に固有の「あるある」でもあった。それを請け負うのは泉こなたであるし、もっと一般的で生活的な「あるある」を担うのは柊つかさだった。更に言えばそれを解説するのが高良みゆきだったし、「あるある」に対して同感したりツッコミを入れるのが柊かがみであり、また同時に僕だった。こなたが涼宮ハルヒのパロディをする度に僕は切実な共感を覚えてけらけらと笑った。同時に、あたかもかがみのようにおいおい!などとツッコミを入れてしまうような心情も抱いた。『らき☆すた』はオタクな少女を主軸にして展開されるアニメだったから、インターネット上での自分は泉こなたで、現実での自分は柊かがみのようだった。あるいは、共感者として彼女らと接しているかのようにも思えた。『らき☆すた』にはこうした同時代的なリアリティが内在していた。モニターはアニメを映す機械ではなく、インターネット上の人間とコミュニケーションを取る為の機械として『らき☆すた』を映していた。当時に限り、僕と泉こなたと柊かがみと柊つかさと高良みゆきはまったく対等で平等な人格として存在していた。
 それでも無情に時間は過ぎる、月並みな言葉だが、しかしやはり時間は過ぎるのだ。けいおんがあって、ゆるゆりがあって、GJ部があって、きんいろモザイクがあって、ゆゆ式があった。僕はそれらにひどく傾倒した。主人公が悪を打ち砕く物語でもなく、ダークヒーローが正義の鉄槌に抗うのでもなく、少年少女が恋をするのでもなく、単に普通の少女たちが普通に暮らすだけの物語に永遠や無限を見出した。それが僕の精神の一切であるようにも感じられた。アニメを観ているだけで世界のあらゆる可能な事態が僕の前に開かれているように感じた。けれども、いくらアニメを観ようとも、時折思い出したかのように僕の中の泉こなたが僕に語りかけてくるのだ。不意に心に影が差し、自らの罪を暴き返し懺悔を要求するように、泉こなたが僕に問いかけてくるのだ、『らき☆すた』の存在について! 僕は深く苦悩した、『らき☆すた』を見捨てて次のアニメの世界に没入してしまっていいのかと、僕の存在の余地のない世界に傾倒していいのかと、泉こなたのことをすっかり忘れてしまっていいのかと、あの共有した世界や時間について、僕はすっかり過ぎ去ってしまったものとして処理をしてしまっていいのかと! その度に僕は強い後悔の念に駆られて『らき☆すた』を讃えたし、人々にふれて回った。もう一度『らき☆すた』を思い出せと言い、あの頃の精神性を取り戻せと叫んだ。それでも、『らき☆すた』は過ぎるのだ、らき☆すたではなく『らき☆すた』として! 過ぎ去ってしまったらき☆すたは『らき☆すた』として作品名を与えられてしまうのだ、まるで写真にタイトルを付けるかのように、過ぎ去ってしまったものとして記憶を定着してしまうように!
 だからこそ僕は言う、年月が過ぎ、『らき☆すた』の同時代性が陳腐化してしまった今だからこそ言うのだ――泉こなた、僕は君を愛していた、と。これが恋心であったか友情であったかは定かではないが、同志であり、尊敬すべき先導者でもあった泉こなたを、僕は愛していたと表現する他にない。『らき☆すた』は過ぎ、「あるある」というある種の強要的な共感を捨て去った日常アニメが台頭していった現在は、もはや僕は美少女らと対等に接することができなくなってしまった。我々はただ美少女らの戯れを眺めるだけの監視者になってしまった。それに満足してしまうような精神を養ってしまった。それでも、決して屈すること無く、かつての王国が存在したという事実を刻むように、僕の、K坂ひえきのTwitterのbioには、誇らしげにこう記されてある。陳腐化に屈せぬ美しい心情が確かに存在していたのを忘れぬように。「――泉こなた! 俺はその名を聞いたことがある! いつだったかまるで思い出せやしないが、確かにほのかな感情だけは感じられるのだ! そして、俺がその名に輝かしい愛をそそぐ限り、君は永劫に消えることはないのだ! 覚えていてくれ! これだけは確かだ!」
 僕はもはや泉こなたという名を愛していたと宣言することしか出来ない。自分の心情に誠実になるのであれば、それ以上のことは決して出来ないのだ。なんせ、らき☆すたは灰となって散り散りになってしまったし、人々はその灰を上手に完成した世界に昇華してしまったのだから。もはや僕の中には『らき☆すた』という名前しか残っていないのだ。
 僕だって散々泣き叫びたいのは山々だし、泉こなたはそれでも対等に生きていると堂々と宣言したいと心の底から思っている。しかし、しかしだ、郷愁がそれを拒むのだ。泉こなたが愛したものを、僕はもはや新鮮に楽しむことはできない。常に郷愁という悪魔が入り込み、活き活きとしていたはずのそれを泉こなたの存在ごと腐敗させるのだ! だから、僕は僕が愛していた泉こなたそのものに愛を注ぐことはもはや不可能なのだ! 僕に出来るのは泉こなたを愛していたと弁明することと、過ぎ去ってしまった泉こなたに観念上の空疎な愛を捧げようと試みることしか出来ないのだ! きっと、泉こなたが今の僕を観たらきっとこう言うだろう――次のアニメでも観ればいいじゃんって。まったくその通りなのだ。それこそが健全で建設的で合理的な判断だ。でも、泉こなた、僕は君の亡骸に語りかけていると理解していながらもこう考えてしまうのだ。泉こなた、君はそれでいいのかと。このまま永遠にオタクたちの過去として、埋没してしまっていいのかと。彼女がそれにどう返答するのか、僕は想像することを拒む。肯定するのであればあまりにも悲劇的であるし、否定したところで泉こなたにも、僕にも決して手出しすることは出来ないのだから。それゆえに僕は彼女の返答をたとえ空想の内部であれ確定しない。ただ、無力にも空疎な救済の祈りを彼女に捧げるばかりである。
 僕は時折、もっと愚直に泉こなたは俺の嫁などと宣言出来るほどの愚かさが欲しいと望む。あるいは、泉こなたのことなどすっかりと忘れてしまって、次々と放映されるアニメを消費するだけの人間でありたかったと切に願ってしまう。しかし、そうはいられなかったのだ。泉こなたはすっかり死んでしまって、今の僕が見ることができるのは泉こなたの無慈悲な亡骸だけだ。静かに横たわって、あるのか無いのかもわからないような棺の中でぼんやりと存在しているかのように思える泉こなたの死骸だけなのだ。僕が関与する余地もなく、死んでしまった泉こなたの死骸なのだ! 僕にはその亡骸がすべての仕事を終えてまったく満足しているようにも見えるし、これから訪れるだったであろう黄金のようなオタクたちの華々しい時代を迎えられないという事実に為す術もなく打ちひしがれているように見える。彼女はすっかり過ぎ去ってしまったのだから――。
 そしてこれを書いている僕は、泉こなたと僕の関係を単なる悲劇的な物語として昇華させてしまおうとしていることに大きな恐怖を覚えている。決してそんなつもりは無いと言い張りたいところではあるが、事実としてそれは悲劇だ。手のつけようがないほどの悲劇なのだ。泉こなたが現在に為す術がないように、僕にだって泉こなたの為に成し得ることは一切ないのだ。泉こなたの亡骸を前にして、友情と敬意を払うことしかできず、何も彼女のためにしてやることはできないだ。――だからこそ僕は泉こなたの亡骸を泣き喚くことなく眺めている。僕は決して君と再び逢えることを願いはしないし、僕の中から忘れ去られてしまうことを願うことだって無い。死骸を眺めるのだ。ただ、腐敗するその亡骸に愛と追悼を込めて。

(2014/03月執筆、『しあわせはっぴーにゃんこ』所収、同年05月05日東京文学フリーマーケット頒布)

2015/09/23

各国のMMD制作者覚書

これは日本国外のMMD制作者を国籍別に分類した、私的な覚書です。
国籍ごとに何かしらの傾向やミームのようなものがあるのではないかという私の推測のもとにまとめてあります。
随時追記予定です。
情報提供や掲載拒否などのご意見がありましたら@hiekiまでご一報ください。Google翻訳を駆使して対応します。日本語、あるいは英語だと嬉しいです。
この作業に、学術的な意義が訪れんことを。

アメリカ

・KyokoSakura232氏 https://www.youtube.com/user/luigi8314/featured

・Belsfir氏 https://www.youtube.com/channel/UC2yOxqT2JYTRN8TK0e9w26Q


アメリカ在住と思われるが特定不能な人物

・Csp499氏 https://www.youtube.com/user/Csp499/featured


ロシア

・Amen氏 https://www.youtube.com/channel/UCTvqIbJBYIsFXvsuTWlrxMg

・WSK Channel氏 https://www.youtube.com/channel/UCqXNkHVTXnMza4hMmvD-t9w/feed


ドイツ

・diaryXpp氏 https://www.youtube.com/user/diaryXpp/about
 DeviantARTより国籍特定。

・Mana Aida氏 https://www.youtube.com/channel/UC0T_cnLKE6tHso7VVhhqHuQ

スウェーデン

・Harpoonneet氏 https://www.youtube.com/user/Harpoonneet/featured


スペイン語圏

・Sanae Kochiya氏 https://www.youtube.com/channel/UCOfSXtnEdSWTDGj0EUBifKg




Memo
スペイン語圏の情報を収集すること。←作業量が多い。
ドイツ語圏のMMDerを捜索すること。←ドイツ人はweb上で英語を使用する事が多いのではないか。特定に時間がかかる。
中国のMMDerの情報をまとめること←膨大過ぎて個人では不可能なのではないか。

海外のMMD動画に関する幾つかの情報と、とんでもない逸材を見つけた話

 表題通りの話をします。
 主にみなさんに知っていただきたいのは後半部の第三章なので、適当に読み飛ばしてもらって構いません。

1. はじまり

ここ一年ほど、僕は定期的に外人が作ったMMD動画を漁るのにハマっている。きっかけとなったのが以下の動画で、MMDと(恐らく)コメディ番組を組み合わせることでこんなにも暴力的でシュールな動画が出来上がるのかと素直に感嘆した。



("Twilight"とは米国で爆発的な人気を誇るステファニー・メイヤー著のティーン向け小説の事を指す)

 こういう作品を作れる人の感性というのは大抵の場合優れているし、その人が属する界隈も大抵優秀な人間が集まっている。というわけで僕は喜々として関連動画をクリックしまくり、ハマった。
 日本のMMDもそれなりに嗜んではいたが、全く異質な方向性が海外MMDには備わっている。

 界隈の雰囲気が伝わるような作品を、作者別に幾つか紹介しておく。
 ここでは下品さも支離滅裂さも稚拙な発想も、アニメキャラという一点においてすべて許される。そういうのを楽しめない人は、悪いことは言わないからこの記事を閉じたほうがいい。


KyokoSakura232氏https://www.youtube.com/user/luigi8314/featured
 近年はまどマギMMDから離れて、ラブライブMADの作成に注力しているようだが、彼の過去の仕事の偉大さは眼を見張るものがある。上記の動画も彼の作品である。
 DeviantARTの情報を見るに、アメリカ在住の学生らしい。Free!のコスプレもやっているようだ。






Csp499氏https://www.youtube.com/user/Csp499/featured
 ボカロ、まどマギ、ガルパン問わずトムとジェリー風のモーションで暴れさせるのが彼の特徴である。よく壁や地面に埋まり、また壁や地面から何かが飛び出てくる。
 過去の作品を見るに彼は恐らくTeam Fortress 2周辺のジャンルに属していたと推測される(また、Gary Mod文化との関連性を指摘する事もできるかもしれない。彼はDeviantARTで「お気に入りのゲームはGmod10だ」と回答している)。
 国籍は不詳、イラストにも堪能のようでDeviantARTでは厚塗りのイラストが多数投稿されており、中々に多才のようだ。







Amen氏(https://www.youtube.com/channel/UCTvqIbJBYIsFXvsuTWlrxMg)
 狂人揃いの海外MMD界隈の中でも異質な狂気を放つロシアの異才である。
 ロシア語というのもあって基本的に文脈が何もかも理解できない。せいぜい、海外ではくまモンがサタンの手先として扱われているのしか分からない。あとは彼がドラッグをキメている事くらいだ。
 クロエ・ルメールが咆哮するメトロ・ゴールドウィン・メイヤーのスタジオロゴパロディが彼のシンボルのようだ。
 



Sanae Kochiya氏(https://www.youtube.com/user/Sanaefroggy/featured)
 彼の作品には生活と密着したアグレッシヴさが潜んでいる。
 彼はMMD界のトゥコ・サラマンカだ。
 国籍は不明(スペイン語圏?)。





Belsfir氏https://www.youtube.com/channel/UC2yOxqT2JYTRN8TK0e9w26Q
 東方とまどマギを中心に、Team Fortress 2を組み込んでMMDで表現する作品が多い。
 アメリカ在住、洋ゲー全般が趣味のようだ。





Harpoonneet氏(https://www.youtube.com/user/Harpoonneet/featured)
 彼の主な得意分野は東方、ハリウッド映画、メタルギア辺りだろう。
 これまで紹介してきた作風とはあまり一致しないが、個人的に気に入っているので紹介しておく。
 東方キャラがサングラスを付けて銃をぶっ放していたら彼の作品であると考えても良いだろう。ISAO式博麗霊夢モデルの顔芸がお気に入りのようだ。
 日本語が堪能で、日本語字幕を付けてニコニコ動画にも投稿しているようだが、再生数はあまり伸びていない様子。我々日本人は有能な人材を見逃しているようだ。
 スウェーデン在住。







 彼らに共通するのは、過剰な効果音と物理法則を無視した挙動とクラブ・ミュージックなのだが、まあそういう話はどうでもいい。
 これらの作風の傾向は、恐らくゲーマーの間で形成されている文脈に起因しているのだろう。

 こうやって記事をまとめている間に、また興味深いロシア人の手によるMMDを発見したので貼っておく。
 初音ミクがロシア語で歌いながら両手を宙にかかげつつ揺れ、その背後でよくわからない古いアニメの映像が流れている。一体彼の人生に何が起こったらこんなものを作れるのだろうか? 大変興味深い現象だ。



2. PAUL SU

そうこうしている内に、僕はPAUL SUなる人物の存在を知ることとなる。
 きっかけはこの動画だった。
  

 中国語(?)のラップに合わせて初音ミクと博麗霊夢がラップバトルをする動画である。
 彼の映像面での技術力は凄まじい。これほどまでに奥行きと実在性を持たせたMMDはそうそうお目にかかれないだろう。この辺の言葉選びはもうフィーリングでしか無いので多くは語らないが、ともかく彼の映像とセンスは群を抜いている。



 彼は台湾人らしいが、台湾ではこのように新年を祝うのだろうか。

 彼は「曲に合わせてキャラクターたちが踊る」というオーソドックスな動画も手掛けている。
 ボーカロイド曲の振り付けを考案し、モーション配布することで多様性を獲得しオーソドックスにまで成り上がったこの踊ってみた系のMMDだが、彼の場合はまったく事情が異なる。
 彼は既存の楽曲のPVをMMDで再現するという手法を採用している。例を挙げておこう。





 なんともまあMMDのキャラクターたちがこういう衣装を着ると見事に娼婦となることか。たまりませんね。
 Hush Hush Hush Hushは「意味もなく背景に置かれた高級車」「DJ」「各作品のキャラクターの混在」「娼婦にしか見えない際どすぎる衣装」あたりの、僕の中ではとても重要な要素が抑えられていて実に良い。
 ちなみに、「高級車」「DJ」「娼婦にしか見えない衣装」で言えば前述のSanae Kochiya氏が秀逸な作品を残している。
 

 品性下劣ここに極まれりといった具合だ。素晴らしい。

 PAUL SU氏の作品を追いかけている内に、僕は中国のMMD界隈の発展に気付くことになる。作品紹介はここでは行わないが、興味がある人はYOUTUBEで「東方偶像鄉」と検索すると良い。

 調べて見るに、中国では中国版ニコニコ動画の「Bili Bili」なる動画サイトがあるらしい。そのBili Biliが主催するMMD杯、「Bili Bili MMD大赛」が大変な盛り上がりを見せている。詳細は分からないが、優勝賞品にはGalaxy S6 edge、Galaxy Gear VR2、2500元(日本円で47,00円くらい)。準優勝にはmini 3Dプリンターと1000元(18,000円くらい)が贈られるという。豪華だ。ニコニコ動画も公式でMMD杯を主催して豪華賞品を用意すれば盛り上がるんじゃないかと思ったが、あれは有志で運営されてるからこそ面白いのであって、公式が噛むとろくな事にならない予感がビシビシとした。

3. スペイン語圏のMMD


ロシア人の作るMMDがトチ狂っているという情報を元に、国籍ごとに何かしらのムーブメントやミームのようなものが発生しているのではないかと思いYOUTUBEを漁っていた所、スペイン語圏では鏡音リンと鏡音レンの純愛MMDが流行している事が分かった。どういう流れでこのような文化が発生したのか僕には全く理解できないが、ともかく、事実として流行している。
 それも見ているだけで気恥ずかしくなっていい年してこんな動画で気恥ずかしくなる自分に気が滅入ってしまう程に甘々な純愛モノで、抱き合ったりキスしたりするモーションもやたらと生々しい。
 幾つか紹介しておこう。











 「RinxLen」という名称のジャンルになっているらしく、「RinxLen mmd」で検索すればもう腐るほどヒットする。探してて気が狂いそうになった。
 ここで挙げた動画はそれぞれ異なる作者によって作られており、いかに文化として定着しているかがよくわかる。一体スペイン語圏の若者の間で何が起こっているのか。これ以上の詮索は直接話を伺うしか無いだろうが、僕はこれ以上の調査は行いたくない。誰か代わりにやってくれ。

 ここでようやく本題に入れるのだが、スペイン語圏のリンxレン動画を漁っている中で、僕はとんでもない逸材を発見してしまい、この記事を書く決心をしたのだ。

YLREVEB 21氏(https://www.youtube.com/channel/UCAIPpqgFAmCyuk7e0QV_qfg)

 (2016/05/08)YLREVEB 21氏はこれまでのyoutubeアカウントを削除して、一文字目を大文字にしたアカウントを再取得して活動している模様。
 かつてのようにセルフアテレコはしていないが、リンxレンMMD動画自体は今でも投稿しているようだ。

 グアテマラ共和国在住の女性。グアテマラ共和国はスペイン語圏らしい。初めて知った。
 彼女の作風を簡潔かつ性格に述べるのなら、「セルフアテレコリンレン純愛MMD」となる。ひどい字面だ。
 彼女はMMDでリンレン(に限らないが)の純愛モノを作りつつ、その上自分でキャラクターの台詞に声を当てている。もちろん、キスシーンもだ。普段からエロゲーをプレイしてるのだし女性が喘ぎ声やキス音を収録する事に驚くなんて馬鹿げた話ではあるが、在野の、それもグアテマラ共和国在住の人間がこれを行っているという事実に僕は仰天した。
 動画を貼っておく。







 所々、文脈がよくわからないシーンや一枚絵が挿入されるが、正直なところ海外MMDでは日常茶飯事なのでそこは問題ではない。重大な問題はもっと別のところにある。

 他にも投稿作品はあるので興味がある人間は調べてみるといい。凄い。

 グアテマラ共和国在住以上の情報は見つからなかったが、グアテマラ共和国に住み、欲望の赴くままに部屋でパソコンをいじってる内にMMD文化やRinxLen文化に触れ、自己投影を重ねつつ喘ぎ声を収録し、MMDで動画を作る女性の自意識は一体どうなっているのだろうか。どう考えてもライブチャットで自慰行為を世界配信する人間よりも複雑な絡まり方をしているのではないか。現実に即して想像しようとするほど僕の脳みそはエラーを起こす。

 最後に、日本人にとってグアテマラ共和国は馴染み薄い国なので、参考までにグアテマラ共和国の美しく雄大な光景を貼っておく。




2015/08/19

『Life Is Strange』日本語化覚書

※2016/01/20現在の2ch版日本語化でEP5までクリアしました。2ch版の状況としては、EP3は前半部の日本語化が完了しており、EP4、EP5は一部のメインストーリー上重要な箇所が所々日本語化されています。ある程度英語がノリで分かる人なら問題なくプレイできると思われます(僕のTOEICの点数はひどいもんだ!)。
なお、現在でも有志による日本語化は、僅かずつではあるものの、確実に進行してはいる様子です(スプレッドシートの履歴を確認されたし)。

※2015/12/02現在、スクウェア・エニックスから公式に日本語版の発売が発表されており、更に有志による翻訳はこの記事が扱う2chチームとGitHubチームの二者が同時並行的に行っている状況です。どの翻訳を利用するかは各自で熟慮の上ご判断ください。





『Life Is Strange』なるゲームが海の向こうでにわかに盛り上がっているようで、これはエモいぞと思い勇んで購入したはいいが、公式の日本語版は存在せず、有志による日本語化が行われている為、それの適用方法をここに記しておく(しかしながら、洋ゲーをかじっていると有志の日本語訳には様々な局面でお世話になる、この場をお借りして多大なお礼を申し上げたい)。

なお、もし翻訳チームからの苦情や異議申立てがあれば、この記事は速やかに削除する。

また、この情報は2015/08/19時点のものであり、現時点では翻訳作業はEP3の途中まで進んでいるようである。翻訳作業は適宜進行しているはずなので、必要な情報があれば各自で翻訳所をチェックすること。


1. 用意するもの

・Life Is Strange本体

→買え。

・翻訳データ

→新作業所からダウンロードする。
 スレ>>157にURLあり http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/52155/1429967185/157
 ファイル→形式を指定してダウンロード→OpenDocument形式(.ods) でダウンロードする。

・翻訳データの変換スクリプト

→スレ>>125にて配布 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/52155/1429967185/125

・日本語フォント適応パッチ

→スレ>251にて配布 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/52155/1429967185/251


2. やること

・ダウンロードした翻訳データ(Life Is Strange.ods)を変換スクリプト(LifeIsStrangeCV)を用いて変換する。

→変換スクリプトのReadmeに従えばいい。

 Life Is Strange.ods を LifeIsStrangeCV フォルダの create.cmd と同じ場所に入れて、 create.cmd を実行する。
 Outputフォルダ内に作られた Build 、Localization、 Movies の三つのフォルダを、ゲームインストール先( steamapps\common\Life Is Strange\LifeIsStrangeGame )に貼り付けて上書きする。バックアップは自己責任だョ。

・日本語フォントを適用する。

→LifeIsStrangeJPMod64 (あるいは32) のReadmeに従えばいい。

 ゲームインストール先( LifeIsStrangeGame\CookedPCConsoleFinal ) の ExampleGame.upk を LifeIsStrangeJPMod64 ファイルの create.cmd と同じ場所にコピーして create.cmd を実行する。
 Outputフォルダ内に作られた日本語化適用済みの ExampleGame.upk と JpFonts.upk を元のフォルダ( LifeIsStrangeGame\CookedPCConsoleFinal )にコピーして上書きする。

 次に、 LifeIsStrangeGame\Config にある DefaultEngine.ini をメモ帳などで開き
「SubtitleFontName」の項目を検索し、「 SubtitleFontName=JpFonts.DialogFont 」と書き換える。
 更に、[Engine.StartupPackages]の項目を検索し、「+Package=JpFonts」の行を追加する。

・起動オプションに「-Langage=JPN」を追加する。

→SteamのライブラリからLife Is Strange→プロパティ→「一般」タブ→「起動設定…」→「-Langage=JPN」と書き込む。

・起動して日本語化されているか確認する。

→そんなこと言われなくても出来るだろ、な?


3. 遊ぶ

みんなで楽しく遊ぼうね。

2015/08/16

『さくら、咲きました。』をプロモートするだけの記事

1.  日常ってあるよねという話
美少女たちが賑やかに日常を過ごすだけの日常系アニメが持て囃されるという風潮がある。最高だ。日常系アニメは素晴らしい。僕は『らき☆すた』や『ゆゆ式』のような作品を心の底から愛している。しかし日常性というテーマを理解し活性化させるには、日常系アニメについて語るだけでは不十分である。何かを理解するにはそのものの外側から吟味する必要がある(日常系アニメは決して日常の外側に行かないからこそ美しいのだけれど、それはまた別のお話だ)。そこでエロゲーを通じて日常の肯定について少しばかり考察を巡らせつつ、適度にエロゲーをプロモートしようというのが本稿の主題である。
愛すべき日常が唐突に終焉することになりました、じゃあ僕たちは死ぬまでに一体何をしよう系のエロゲーと言えばもちろん『そして明日の世界より――』に言及しないわけにはいかないだろう。しないわけにはいかないのだが、私事ではあるのだが、2007年発売のエロゲーって何があったろうとチェックしていたら、とんでもない文字列の嵐が目に飛び込んできたのだ。そして明日の世界より――、世界でいちばんNGな恋、キラ☆キラ、カタハネ、赫炎のインガノック、R.U.R.U.R、月光のカルネヴァーレ、CloverPoint、明日の君と逢うために……ジーザス、なんと輝かしい一年だったのだろう。もう八年もの歳月が流れたのだ。我々人類はあの頃から一歩でも前進できたろうか?
という僕の葛藤もあるが、実際の所、日常肯定力の高さで言えば『さくら、咲きました。』のほうが圧倒的に優れている。こちらも『そして明日の世界より――』と同じ隕石落下モノであるが、本作の特徴はトコシエという老化や病を阻止する技術が確立された世界という所にある。永遠に生きていられる世界で、主人公である新庄翼は幼馴染の春野つばめに生活部に入らないかと誘われる。以下、公式サイトの作品紹介からの引用である。

「だったら、生活部に入らない? 楽しいよっ!」
「めーは、いつも生活部のことを話するけどさ。一体、どんな部活なんだ?」
「うーんと、簡単に説明すると……生きる活力を探求する、楽しい部のことだよ!」
まったく訳がわからなかった。
「わたしたちってさ、トコシエだよね。だから、とことん楽しく生きなきゃダメなんだよ」

 ああ、文句ない。完璧だ。それが生命というもののすべてだ。今すぐ京都市バスに乗ってソフマップイオンモールKYOTO店でこのゲームを購入しよう。
 生活部員は生きる活力、即ち「楽しみ」を探求する。他愛もない談笑を交わし、温泉を採掘し(『そして明日の世界より――』にも日常の象徴として温泉採掘が登場する)、和風喫茶で一服し、日常系アニメのように日常を満喫する。美しい。生活部部長の「断言しよう! 今日は地球が生まれてから一番にぎやかな日になる!」という部活開始の決め台詞が鬱屈とした人生だった僕の自意識を強烈に刺激する、止めどない感涙、ああ、僕も生きる活力を探求しなくちゃな、なあ、部長、つばめ、美羽、都……
しかし、唐突に小惑星衝突のニュースが飛び込んでくる。生活部は死の不安から目を背けるように空談し、時折互いを励まし合い、日常を続行しながら小惑星の続報を待つ。小惑星を破壊する計画オペレーション・トロイアの公表、それに伴う一時的な全国規模の停電の発表は他人事のように感じられ、ただ漠然とした不安を抱えながら日々を過ごしてゆく。物語は決して「日常の外側」へと完全に出て行ってしまわない。隕石落下という日常の外側に直面しつつも、常に人々は日常を送っているのだ。そうした中でヒロイン達は生きること、生活をすることの意義を見出してゆく。『さくら、咲きました。』はそういう物語である。
無闇に物語の核心に触れた所で物語の魅力を損なうだけだろうから、湊美羽さんを紹介しよう。彼女は世界の終焉に肯定的でニヒリスティックな人生観を持った無口なエロゲーオタクの少女である。え、僕じゃん。両親からの愛を感じられず、自己肯定力を損失したまま育った美羽は憂鬱症を患って死は不幸の鎖を断ち切る救済だと考えるようになる。そこに隕石落下のニュースが舞い込んで、あーやっと死ねるわーと安心する所から美羽ルートは始まる。無論、俗に言う泣きゲーの個別ルートとはヒロインのトラウマ解消成長譚なので、美羽ルートのテーマは死の渇望の克服となる。少女が世界の終焉を目前に生を渇望するようになる様子がどれほどオタクの涙を毟り取るかは想像に難くないだろう。

2.  制作陣は称賛されるべきという話
この作品で最も評価すべきは制作陣の細やかな心配りにある。ハイデガー的に言うと顧慮だ。ハイデガー的に言い換える必要あったか? ともかく、何よりシステムが素晴らしい。シナリオプレイヤー機能はエロゲー史上最も快適なプレイングを約束してくれる。『俺たちに翼はない』のシナリオスキップ機能以来の衝撃を受けたシステムだ。各チャプターをシークバーで視覚的に示すことで、我々はあたかも動画プレイヤーのように好きなシーンを再生することが出来る。また、シークバーにはシーンの転換やCG表示のタイミングも記されており、本稿を執筆する際に大変役立った。シーンにブックマークをすることも可能である。これで我々はいちいちシークバーをいじりながらお気に入りのシーンを探す必要から解放されるのだ。
個人的にもう一つ特筆しておきたいのは、メッセージウィンドウの下部にあるセーブ&ロード等のボタン群に、ミュートボタンが配置されている事である。プレイ中にふとTwitterを眺めて気になる動画を発見した際に、いちいちゲームのウィンドウを開いて設定ボタンを押してサウンドのタブを開いてボリュームをゼロにしてああクソ初期ボリュームって最大じゃないのかよスライダの位置覚えておこう、よし動画を観るぞ、観終えた、エロゲーに戻ろう、またボリュームのスライダをいじって…というあの気が狂いそうになる作業から解放される。ボタン一つですべてが済む。
他にも、ドリームオブヒューマンなる仰々しい名称の機能も搭載されている。登場するヒロインの立ち絵を変更できるシステムだ。具体的には、バイト衣装や獣耳やメガネやパンツブラや縞パンや白パンや紐パンやバンソーコーや前貼りに変更することが出来る。えっちだ。嬉しい。笑顔になれる。…そうか?
更に追加シナリオパッチも配布されている。各ルートのアフターストーリーがおよそ月に一本のペースで計十本も配布された。いずれも生活部や生活部の周囲の賑やかな日常を描いたものである。日常の外側から日常というものを蘇らせ、再び「楽しい日常」を描いていく姿勢には脱帽する。システム面の快適性をも追求することで、プレイヤーが生活部の日常にいつでも回帰出来る環境まで整えている。このエレガントな制作陣の気配りの源泉は一体どこにあるのか? SORAHANEの公式ブログには大自然とスイーツの写真が大量にアップロードされている。この雄大な大地の正体は? SORAHANE本社はどこに位置している? 山形県である。やはり真実とは田舎にあるものなのか。さあ、『のんのんびより』を観よう、日常というものが、生活というものが何たるかを理解した今、我々は再び日常へと回帰すべきなのだ……

2015/02/19